座布団なるもの、なにやら不思議ではないか。相撲見物では熱狂した客にブン投げられ、かしこまった場所では「ささっ、どうぞ、どうぞ」とムリクリ尻の下に滑り込まされ、昼寝となるとむんずと折曲げられる。赤ん坊のオムツ換え、人生最後のイベント・葬式と、日常から非日常空間まで幅広く登場する備品だ。

 私はいつも(からだのデカイ自分が)どっかり安心して座れる、適度にふかふかでおさまりの良い「自分の居場所」という名前の座布団を探してきたような気がする。あなたには、すわり心地のよい座布団(居場所)がいくつありますか?               しまこ


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乱太郎ブログ
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*小学館の女性向け総合情報サイトmuffin-netにて「30歳からの自分ルネッサンス」連載中です。 毎週火曜日更新

 
『救われない、おれ』 10.31
 おれ、乱太郎。
きょうは、おれの妹のことを書く。

 おれの妹の愛称は「れん」。

 妹は、兄のおれにとってかわいいやつだ。だが、おれと違って「優等生」っぽい。そこが時々「ちぇっ」と思う。

 例えば、おれらのうちでのお手伝いは、おれが「ごみ捨て」で、れんは「おふろそうじ」で、毎朝新聞をもってくるのはきょうだい交替制だ。

 作業の負担度はおれのほうが軽い。
 おれは登校するときに、ごみを2階のリビングからずずずずずーっとひきずって下に引きずって行き(いつも、おかんに引きずるなと叱られる)、玄関の前に置いておけばいい。

 (おれの住んでいるところは最近ごみ回収が有料になった代わりに、戸別回収になった。だからごみ袋がすごく高い。おかんはいつも「中」のサイズにぎゅーぎゅー押し込んでいる。その様子は、おかんがジーパンをはく時の姿を彷彿させるが、おれは怒りを買うことがわかっているので黙っている)

 ま、ともかく戸別回収だから簡単だ。ただし、おれはごみを持っていくのをよく忘れる。
 そうすると、ゴミ回収車の音楽をいち早く耳にした妹が、「ママ!らんちゃん、ゴミだしてないよっ!」と教えるらしい。おかんは、パジャマのままごみを抱え「待ってくださあーい!」と回収車を追いかけるそうだ。
 学校から帰ると、妹は「らんちゃん、今朝、ごみだし忘れたでしょう。ママ、赤いパジャマ(カナダに住んでる叔母さんからの贈り物)のまま、走っていったんだよ。れん、すごく恥ずかしかった」と文句をいうんだ。

 でもって、妹は風呂のそうじをきちんとやる。
 本来、風呂の掃除は、朝シャワーを浴びるおとうの仕事なのだけれど、おとうは時々忘れるんだ。なので、妹はとりあえず、おとうのフォロー役なのだが、このフォロー役の出番は少なくない。
 しかも、やつはなぜか労を惜しまず、浴槽だけでなく、洗い場のところもせっせとブラシでこすったりする。おとうたちが使うブラシは5歳児の手には大きすぎるため、やつは細い靴磨きのブラシでこすっている。

 この姿が、おかんのこころを打つんだ。

 ある晩、おとうがそうじを忘れていたので、やつの出番が来た。
 「れん、お風呂、そうじしてくれる?」とおかんがいうと、やつは「うん、わかった!」と嬉々として風呂場に向かった。
 10分たち20分たっても妹はなかなか風呂場から戻らない。おかんは少しあわてて「れん!どうしたの?れん!」と走って見に行った。おれも後を追ったら、やつは両ひざをついて、黙々とシューズブラシで洗い場の壁をこすっていた。
 真剣な横顔、汗を光らせた小さな額、ぬれるからあらかじめパンツ一丁で上は下着のランニング姿になって、黙々とブラシを動かしている。シューズブラシだから効率が悪いことこのうえないのだが、チカラがよく入るため妹が洗った部分はぴかぴかだった。

 このけなげな姿が、おかんを感動させるわけだ。

 「れん、浴槽だけでいいのよ。本当にいい子ねえ」とおかんはうれしそうに、妹をひざのうえにだっこして足を拭いていた。

 おかげでおれはとばっちりを食う。
 「乱、あんたも、1回くらい、ママから、乱、もうそのくらいでいいのよ!っていわれるくらいお手伝いしてみたら?」と皮肉をいわれる。
 きょうだいを比べてはいけません、って育児書とかに書いてないか?おかん。いかがなものか、とおれは憤慨する。

 そのほか、やつはとにかくしっかりしている。
 先週、秋の遠足が、れんの保育園、おれの小学校と、二日続けて実施された。
 やつの日は秋晴れだった。
 やつは6時に起きて、おかんを起こした。
 目覚ましなしで起きられるなんて、おれにはありえない(おかんにも)。どうやって起きたんだろうか?やつに尋ねたら「高尾山(やつの遠足の行き先)の神様が、起きなさい、時間だよってゆった」というのだ。
 (あほか)とおれは思うが、「へえ〜」と黙っている。やつは、へんに乙女チックなんだ。
 そのうえ、おかんに「やらなければならないこと」を明確に指示を出す。
 「ママ、お弁当作って」
 「ママ、ごはん、炊いた?」
 (おかんは夕飯のとき、「さあ、カレーできたよ!食べよう!」といって、「ぎゃっ、ごはん炊いてない!」と悲鳴を上げるという致命的なミスをたびたび犯しているため、妹も非常に警戒を強めていたようだ)
 「ママ、お着替え、出して」
 「ママ、おしぼり、忘れてるよ」
 「ママ、しおり、入れた?」
 そして、準備を整えてから化粧しているおかんに、厳しく言い放つ。
 「ママ、ほいくえんにおしょうしていなくてもいいじゃん!」と。

 でも、いわれたおかんはニコニコ笑っていうんだ。
「はいはい。わかりましたよ。れんはまじめだもんねえ。いつもれんには救われるわあ」

 翌日はおれの遠足。今にも雨が降りそうだった。もしかしたら、小雨が降っていたのかもしれない。
 だが、おれは妹と違って「おかんを救う」タイプではない。起こさないし、起こされて、ようやく「ああ、遠足だっけね」といつもよりは多少スムーズに起きる程度だ。
 運動会は興奮して起きたが、遠足はごくごく近場で保育園時代に行ったことのある場所だ。そのため、運動会が興奮度3とすると、おれのこころを揺さぶるには興奮度1くらいのマグニチュードでしかない。

 なので、「救われない」おかんは、自力で起きて(おれからすれば当然の助動詞ベシなんだが)案の定バタバタと弁当を作っていた。運悪くその日は打ち合わせでおかんも外出する予定があったため、よけいに天候まで気にする余裕はなかった。

 おれは嬉々として、リュックだけを背負っていつもよりかなり早めに家を出た。ちょっと小雨かな?と思ったが、おかんもなにも言ってなかったし、遠足だ、遠足だ〜!と華やいだ気持ちがおれの判断を鈍らせた(っていうか、まあ、なんも考えてませんでした)。

 もう、我が家のパターンでお気づきのかたもいらっしゃるだろう。

 学校に行ったら、しばらくして先生が教室に来て、誠にショッキングな報告をした。

 「きょうの遠足は雨のため中止です」

 おれはショックのあまり、声も出なかった。
 だが、ほとんどのクラスメイトたちは、何も言わず黙々と通常授業の準備に取り掛かるではないか。
 「え?なんで、みんな教科書もってきてんの?」おれのつぶやきに隣の席の女子が冷ややかに言い放った。
 「朝、雨が降ってたでしょ?給食がないからお弁当は必要だけど、雨だったら延期になるから通常授業だって、先生昨日言ってたじゃん」
 おれも、さすがに事情をのみこんだ。
 この報告はおれと、おれと同じくらいすっとこどっこいか、自宅が学校から遠く雨天と判断するには困難だった家庭のクラスメイトに限ってのみ「ショッキング」だったのだ。

 おれは隣の女子に教科書を見せてもらいながら、ため息をついた。
 (おれって、救われねー)

 ところが、1時間目の生活授業が終わってから、おとうが教室に現れた。「乱、中止だろうからって、ママが時間割してくれたぞ」
 そういって、紙袋に入った教科書やノートを渡してくれた。
 おれは(救われた!さすが、おかんだ)とこころのなかで、そのころ仕事で御茶ノ水にいるであろうおかんにVサインを送った。

 ところが。

 次の時間の国語の教科書やノートは入っていたが、算数がない。よくみると、おかんが用意した時間割は、その日(水曜日)のものではなく、翌日の木曜日のものがセットされていた。

 おかん、間違えたんだな……。
 おれは、こころのなかでもう一度つぶやいた。
 前言撤回。(おれって、やっぱ、救われねー)

 おれはうちに帰って、おかんに少しばかり文句を言った。
 すると、おかんはキャラキャラ笑って言った。
 「ごっめ〜ん。もー、あんまりだよね。はははは。我ながら、笑えるねえ。ここまでドジだと。救いがたいねえ。あははははは」

 「やっぱ、このうちで、まともなのは、れんだけだな」とおとうは嘆息した。
 おかん、おれは、れんと違っておかんを救えないけど、おれも救われねーぞ。
 おれら一家は、妹の来春の入学を心待ちにしている。
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© しまこの座布団 - 2005